クラウドファンディングという言葉が広く認知され始めてから、不動産の世界でも「不動産クラウドファンディング」という言葉が急激に市民権を得てきました。
不動産クラウドファンディングとは正確にいうと、不動産特定共同事業法(略称:不特法)という法律に基づき、運用者が投資家から不動産購入のための資金を集めて運用期間中の賃料や売却益から配当を出す仕組みの投資方法です。
不動産を一口数万円から100万円程度に小口化するので、少額から出資できるというメリットがあります。
本記事で、不動産クラウドファンディングの性質と自分の資産運用スタンスをすり合わせ、不動産クラウドファンディングが自分にとって良い投資なのか、一つの目処になれば幸いです。
- 不動産クラウドファンディングってどういうものなの?
- 不動産クラウドファンディングの種類
- 種類1:任意組合型
- 種類2:賃貸型
- 種類3:匿名組合型
- 他の投資手法との比較
- ①現物不動産投資
- ②REIT
- ③ソーシャルレンディング
- ここだけはチェックすべき!意思決定の軸は3つ
- ①収益軸
- ②リスク軸
- ③労力軸
- 不動産クラウドファンディングのメリット 4選
- ①少額から不動産投資を始められる(匿名組合型の場合)
- ②手間をかけずに運用できる
- ③インターネットで完結する取引
- 不動産クラウドファンディングのデメリット・注意点 3選
- ①元本保証はない
- ②融資を利用できない
- ③中途解約や持分譲渡ができないサービスが多い
- 不動産クラウドファンディングの業界動向と将来性
- 不動産クラウドファンディング市場規模の動向
- 不動産クラウドファンディングで流通している物件の動向
- ① 都心部マンション物件の状況
- ② 海外不動産への投資
- 不動産クラウドファンディングで流通している物件の動向
- 不動産クラウドファンディングの将来性
- ① 投資市場としての成長の可能性
- ② 社会貢献と利益の両立の可能性
不動産クラウドファンディングってどういうものなの?

不動産クラウドファンディングとは?
不動産クラウドファンディングとは、事業者がインターネットを通じて投資家から資金を集め、その資金で不動産を購入・運用し、利益を投資家に分配するサービスです。不動産特定共同事業法に基づく電子取引業務にあたり、不動産投資の新たなスタイルとして注目されています。
クラウドファンディングを利用すれば、株やFX投資と違い、積極的な運用をしなくても利益を得ることができるため、特に不動産投資初心者におすすめです。少額で始められるために、多くの人がこの方法で不動産投資を始めています。
不動産クラウドファンディングの種類
不動産クラウドファンディングには主に、下記3種類があります。
種類 | 特徴 | 向いている人 |
---|---|---|
任意組合型 | 不動産を複数の投資家で共同所有する | 所有権を得たい人 |
賃貸型 | 出資後に事業者と賃貸借契約を締結する | 所有権を得たい人 |
匿名組合型 | 事業者と匿名契約を締結する | 少額から投資したい人 |
種類1:任意組合型
任意組合型は、投資家が複数で不動産を共同所有する形態です。
投資家は業者に運営を委託し、実際の管理は業者が行います。直接投資し、そのすべての権利の一部を持つことができます。
種類2:賃貸型
賃貸型では、投資家が不動産の一部を購入し、業者と賃貸契約を結びます。
この形態では、事業者が不動産の管理を行い、投資家には家賃収入が支払われる任意組合型と同様に、投資家は不動産の全ての権利を持つことができますが、提供される物件は比較的少ないです。
種類3:匿名組合型
匿名組合型は、投資家が事業者に資金を注ぎ、その事業からの収益を分配する形態です。
この形式は、少額から始めることができ、大型物件への投資も可能です。
他の投資手法との比較
【不動産クラウドファンディングとほかの投資手段の比較】
不動産クラウドファンディング | 現物不動産投資 | REIT | ソーシャルレンディング | |
---|---|---|---|---|
初期費用 | 1万円〜 | 80〜100万円 | 1万円〜 | 1万円〜 |
運用期間 | 半年〜2年程度 | 5〜10年 | 5年以上 | 3ヶ月〜5年 |
①現物不動産投資
不動産クラウドファンディング | 現物不動産投資 | |
---|---|---|
メリット | 1口1万円から手軽に始められる | 不動産売却で大きな利益を得られる |
デメリット | 一度に多くの利益は得にくい | 初期費用が必要 |
現物不動産投資は、物件を直接購入し、家賃収入や価値の上昇利益を得る方法です。
ただ、不動産売却まで時間がかかる流動性の低いのが欠点です。この点、不動産クラウドファンディングは初期費用が少なくて済むため、不動産投資初心者には考えやすいかもしれません。
②REIT
不動産クラウドファンディング | REIT | |
---|---|---|
メリット | 1口1万円から手軽に始められる | 分散投資が可能 |
デメリット | 一度に多くの利益は得にくい | 元本割れの回避手段がない |
REITは不動産投資利益で、専門家が不動産の運用を行います。
多様な不動産に分散投資できるメリットがありますが、具体的な物件選びはできず、証券市場での取引のため元本割れのリスクが存在します。
③ソーシャルレンディング
不動産クラウドファンディング | ソーシャルレンディング | |
---|---|---|
メリット | 1口1万円から手軽に始められる | 価格変動のリスクがない |
デメリット | 一度に多くの利益は得にくい | 融資のため貸し倒れのリスクがある |
ソーシャルレンディングは、資金を希望する企業と投資を望む人を仲介するサービスです。
価格変動のリスクがなく、リターンが事前に確定している点が魅力です。
また、ソーシャルレンディングを装った投資詐欺の存在には注意が必要です。
ここだけはチェックすべき!意思決定の軸は3つ

不動産投資をはじめに、不動産クラウドファンディングにおいても重要な判断基準があります。
①収益軸
「どれくらいの収益を、どのくらいの期間で求め見積り」 期間で高収益を求める場合は、株式投資やFXが適しています。不動産初心者には、不動産クラウドファンディングが適しており、大きな初期投資をせずに始められる点はおすすめです。
②リスク軸
「許容できるリスクのレベルはどのくらいか」 高いリターンを追求する投資にはリスクも関与します。
不動産クラウドファンディングでは、比較的リスクが低く、事前に確定された判断を期待できるため、堅実な資産運用を目指す方に適しています。
③労力軸
「投資にどれだけの時間を割けるか」 大きな収益を得るために、市場の動向に敏感である必要があり、時間と労力が必要です。運用が行われるため、投資家は少ない労力で参加でき、時間的な負担が少ないことも大きなメリットです。
不動産クラウドファンディングのメリット 4選

①少額から不動産投資を始められる(匿名組合型の場合)
通常、マンションやアパートなどの現物不動産を購入するには、金融機関からの借入やまとまった資金が必要です。ローンを利用する場合、物件価格の20~30%程度を初期費用や頭金として準備するのが一般的です。
たとえば、物件価格が2,000万円の場合、400~600万円が目安となります。
一方、不動産クラウドファンディングを利用すれば、1万円程度の少額から投資を始められます。まとまった資金がなくても、不動産物件の情報を確認しながら現物不動産投資に近い感覚で投資判断ができます。
なお、不動産クラウドファンディングの最低投資額はサービスごとに異なるため、余裕資金の範囲内で自分に合ったサービスを事前に確認することが大切です。
②手間をかけずに運用できる
不動産クラウドファンディングでは、入居者との契約や物件の修繕といった管理業務をすべて運営会社に任せられるため、手間をかけずに投資ができます。手続きはインターネットで簡単に完結し、投資後は基本的に分配金や元本の入金を待つだけです。
③インターネットで完結する取引
投資家登録、ファンド選び、契約手続き、不動産管理など、すべての手続きがインターネット上で完結します。現物不動産投資のように紙の書類を使った契約は不要で、時間が限られている人でもパソコンやスマホを使って気軽に投資を始められます。
④投資リスクを軽減する仕組みがある
多くの不動産クラウドファンディングサービスには、投資リスクを軽減する次の2つの仕組みがあります。
- 優先劣後方式
- マスターリース契約
優先劣後方式
優先劣後方式は、ファンドで損失が発生した場合に運営会社がまず損失を負担する仕組みです。
不動産クラウドファンディングではこの方式を採用するファンドが多く、損失が発生しても運営会社の出資分から先に負担されるため、投資家は優先的に利益の分配を受けられます。
このため、配当遅延などのリスクが軽減されることが期待できます。
たとえばCREALでは、すべてのファンドに運営会社が約5%の劣後出資を行っています。
この場合、不動産価値が下落した際にはまず運営会社の出資分が損失を負担します。
マスターリース契約
マスターリース契約とは、賃借人がさらに別の賃借人にサブリース(転貸)することを前提とした契約です。この仕組みでは、たとえ賃料が下落した場合でも、賃借人がファンド組成会社に毎月固定の賃料を支払うため、投資リスクの軽減が期待できます。
不動産クラウドファンディングのデメリット・注意点 3選

①元本保証はない
運営会社は収益性が高いと見込まれる不動産を厳選していますが、経済環境や不動産市場の動向によっては想定どおりに運用できず、出資金が元本割れするリスクがあります。
リスクに備えるためにも、事前に物件情報や各サービスの運営実績、会社情報を十分に確認し、余裕資金で投資することが重要です。
②融資を利用できない
現物不動産投資では金融機関の融資を活用し、自己資金以上の金額を運用することで効率的に資産を増やせる点が魅力です。
一方、不動産クラウドファンディングは融資を利用できないため、全額自己資金での投資となります。
ただし、融資を利用するとリスクも高まるため、クラウドファンディングはリスクを抑えて投資を始められる仕組みといえます。
③中途解約や持分譲渡ができないサービスが多い
不動産クラウドファンディングでは、運用期間中の中途解約や持分譲渡ができない場合が多いです。
ただし、不動産特定共同事業法の規制対象であるため、クーリング・オフ制度が適用されます。
契約成立時書面を受け取った日から8日以内であれば、投資申込み後でも契約解除が可能です。
不動産クラウドファンディングの業界動向と将来性
不動産クラウドファンディング市場規模の動向
2017年の不動産特定共同事業法の改正により、不動産クラウドファンディングに関するルールが整備され、これを契機に事業者の参入が相次ぎました。それに伴い、市場規模は年々拡大を続けています。
国土交通省のデータ「不動産特定共同事業法に基づく不動産クラウドファンディングの件数・出資額の推移」によれば、2022年度の出資額は前年度の約2.61倍に達しました。

不動産クラウドファンディングで流通している物件の動向
不動産クラウドファンディングサービスの各サイトでは、さまざまな投資案件が掲載されています。
2023年現在の主な物件動向は以下のとおりです。
①都心部マンション物件の状況

2023年11月に開業した「麻布台ヒルズ」をはじめ、麻布・赤坂・六本木エリアの再開発が注目を集めています。
都心部のマンション価格は引き続き高騰しており、三菱地所リアルティ株式会社の調査によると、都心主要エリアのプレミアムマンション平均成約坪単価は817万円となり、2006年の統計開始時点から約1.88倍に達しています。
この傾向は今後も続くと予想されています。
ただし、都心部の人気物件は投資家からの申込が集中し、募集開始から数十秒で締め切られるケースも多く見られます。
②海外不動産への投資

近年、海外不動産を対象とした案件も増加しています。
たとえば、モンゴルやカザフスタンといった新興国のオフィスビルやマンションが対象の案件も登場しており、新興国の不動産は利回りが高めに設定されています。
日本のクラウドファンディングサービスを利用することで、英語を使わずに投資が可能です。
ただし、為替の変動によるリスクや、入金・出金時に発生する手数料が収益を圧迫する可能性があるため、注意が必要です。
不動産クラウドファンディングの将来性
国土交通省が公開した手引書では、「クラウドファンディングの活用促進を図る」と明記されています。
このことから、不動産クラウドファンディングは国としても重要な施策と位置づけられています。
投資市場としての拡大に加え、地方創生や社会問題の解決に活用される可能性があり、今後さらに注目される分野といえるでしょう。
①投資市場としての成長の可能性
不動産クラウドファンディングの新規参入企業数や募集総額は、この5年間で急速に拡大しています。
2022年度の募集総額は604.3億円で、前年度比で2倍以上の成長を遂げました。
一方で、2023年時点で日本の収益不動産の資産規模は約289.5兆円(前回比+13.9兆円)にのぼります。
不動産クラウドファンディングが占める割合はまだごく一部であるため、さらなる成長が期待される分野です。
②社会貢献と利益の両立の可能性
老朽化した施設の改修、空き家再生、高齢化社会に対応したまちづくりなど、社会的な課題の解決手段としても不動産クラウドファンディングが注目されています。
投資家にとっては利益を追求するだけでなく、資金提供を通じてまちづくりや社会貢献に参加できるという新しい魅力があります。
手軽さや少額から投資できる点に加え、共感を呼ぶ不動産プロジェクトに資金を投じられることから、不動産クラウドファンディングの裾野は今後さらに広がると考えられます。
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